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【ワンピース】モーガン編(第3話“海賊狩りのゾロ”登場)が面白い理由

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モーガン編は3〜7話(計5話)です。

わずか5話とは思えないほど、登場する全てのキャラの魅力や見せ場が詰まっていて、そのテンポの良さと密度の高さに驚きます。

モーガン編では、やはりゾロの存在感とキャラとしての完成度の高さが一番の特筆ポイントでしょう。

第2話時点での「まさかコビーが仲間になるのでは…」という私の懸念をひっくり返し、最高の「1人目」を仲間にしてくれました。

ちなみに私が「ワンピースやべェ」と改めて思ったのは、「お安い御用だ 船長(キャプテン)」というゾロのセリフです。

この点は追って触れます。

※当初「モーガン編」として3〜7話の感想をまとめて書こうと思っていたのですが、丁寧に説明しようとすると、第3話だけですごいボリュームになってしまったので、ひとまず1話分だけで公開してしまいます。(今後、1話ずつの解説にするのか、数話分まとめた解説にするかは書きながら考えます)

モーガン編(第3話)が面白い理由

以下、第3話の好きなシーンを挙げながら面白い理由について触れていきます。

「ルフィさんだって毎度漂流してちゃ海賊になんてなれませんよ せめて航海士を仲間にするとか」→「ああそうする!! メシ食おう」

ルフィの「ちっちゃいことは気にしない(何とでもなるだろうと考えている)」楽観さが気持ち良く、初期の頃はこの性格のおかげでテンポ良く話が進んでいくのがいいですよね。

コビーの提案に対して「ああそうする!! メシ食おう」と一息に言わせることで、コビーの考えに同意はする(否定はしない)けどまるで気にしていない清々しさ(話を聞いているようで聞いていない適当さ・呑気さ)が伝わってきます。

しかしただ能天気なだけではなく、それは自分の強さ(や運)への自信によって裏付けられた余裕と取ることができるため、読者はこの飄々とした振る舞いに底知れなさを感じ、それがこの先どのように描かれていくのか期待するわけです。

「はっはっはっは おもしろい店だったなーっ おれ後でもっかい行こうっ」

ルフィが「ひっくり返るメシ屋の客達」を見て腹を抱えながら爆笑し、もっかい見に行きたいくらいツボっているのが好きで、何度も見ても笑ってしまうシーンです笑

「“ゾロ”や“モーガン大佐”の話をすると客達がひっくり返ってくれる店」とルフィがメタ視点で捉えていることや、実際この後にもっかい店に行って同じことをやってる様子を想像するとと尚笑える。

そんな客達のリアクションを笑い飛ばすルフィに対し、コビーは神妙な面持ちで、

「妙ですよ…!! ぼく なんだか不安になってきました…!! いつ脱走するとは限らないロロノア・ゾロの名に過敏になる気持ちはわかりますが なぜ大佐の名にまで怯えるんでしょうか!!」

と真っ当な指摘をして不安がります。

こうした自然な会話を通して、(客達がモーガン大佐の名前でずっこけたことのおかしさを)読者に理解させてくれてるのが素晴らしい。無駄なコマやセリフが一切なく、必要な情報だけを端的に伝えながら進んでいくため、テンポがよくて読みやすい構成になっています。(まぁ漫画としてごく当たり前のことではあるのですが、今のワンピースはこの最低限のことさえ蔑ろにされているので)

読者目線で言うと、こうしたコビーのフォロー(補足)によって、より話が理解しやすくなっているため、コビーの賢さや常識人具合に少しずつ好感を抱くようにもなっていきます。

そんなコビーの不安に対し、ポケットに手を突っ込みながら雑な返しをするルフィ。

「さあなー なんかノリで吹っ飛んじゃったんじゃねェか?」

そんなわけない笑

さっきの客達のズッコケ具合を「ノリで吹っ飛んじゃった」んだと考えて見直すとまた笑えてきます笑

「そんなわけじないじゃないですか!! ぼくはまじめに言ってるんですよ」

コビーのこのツッコミはそのまま読者のリアクションを代弁してくれているため気持ちがよく、このやりとりは何度見ても笑えます笑

ゾロの登場シーンの迫力とかっこよさ

ゾロの全貌を披露する直前に、ザ・一般人であるコビーに腰を抜けさせるという演出を入れることで、ゾロの初登場はめちゃめちゃ迫力のあるかっこいいシーンになっています。

なるほど、第2話でコビー(のようなただのモブ一般人)を登場させた理由がわからなかったとアルビダ編の記事で触れましたが、ゾロ初登場のインパクトを出すための役回りを見越して登場させたのかもしれませんね。(たとえば今話で初登場するモブキャラに腰を抜かせるよりも、海賊船で働いていてゾロの悪名高さや恐ろしさの噂を知っていて、尚且つルフィとの関係性がある一般人キャラに腰を抜けさせた方が効果的ですからね)

正直、このシーンまでは「ワンピースの作者はあまり絵は上手くない」と思っていたのですが、このゾロの一枚絵で「すげェ…!! クソかっこええ…!!」とめちゃめちゃ興奮し、ページをめくる手を止めて隅々まで絵を堪能したのを覚えています。

ゾロがめちゃめちゃ恐ろしい奴・悪い奴として描かれ、その迫力も存分に伝わってくる中、「殺されやしねェよ おれは強いからね」と自信満々に返すルフィも、それに対して「あァ!?」と睨み返すゾロも最高です。

この頃の絶対的自信に満ち溢れた、しかし飄々としていて気負いがなくて余裕のあるルフィが本当にカッコよかった。

「ルフィさん止めてくださいよっ!!! あの子殺されちゃいますよ!!」→「自分でやれよそうしたいなら」

そんな恐ろしい(ように見える)ゾロの元に、一人の少女(リカ)がおにぎりを届けに近寄ります。

それを見たコビーは大口開けて焦り、「ルフィさん止めてくださいよっ!!! あの子殺されちゃいますよ!!」と清々しいほどの他人任せっぷりを発揮します。

それに対して「自分でやれよそうしたいなら」と超ど正論を返すルフィ笑

読者が思っていること(心のツッコミ)をそのまま口にしてくれるので、読んでて気持ちがいいんですよね。

また、「自分でやれよ」だけで終わらせると冷たく突き放す印象になりますが、「そうしたいなら」を付け加えることでマイルドになり、クスッとできるツッコミになっているところも作者の小技が光るところです。

ヘルメッポの登場シーン

ギャグキャラの描き方もうまくて、明確にお笑い要員として描いているものの、キャラデザが秀逸なためモブ化していないところが素晴らしい。

前半の海の頃は、ギャグキャラの「変さ(おかしさ)」にも作者の遊び心やこだわりがあって、それがキャラの個性になっていました。ただの記号化されたただのブサイクキャラではないため、作者の愛が感じられ、どのキャラにも愛着が持てました。(ワノ国では、アホづら・顔デカ・ゲジ眉・青ヒゲ・赤っ鼻・歯抜け・キモまつげ・短足など、ただ記号化されたブサイク要素を詰め込んで、そのブサイクさによってギャグ化しているだけなので、作者の愛を感じられず、嫌悪感を抱くキャラや生理的に受け付けないキャラばかりでした)

「イジメはいかんねェ」

「親父にゆうぞ」

登場早々、この二言だけで「七光りのバカ息子」であることを自ら表現しきるのが素晴らしい。

それに対する「また変なのが出たな」というルフィの感想も(「変な奴」「おかしな奴」ではなく「変なの」という超雑な扱いをしている所も相まって)笑えます。

その後のコビーの「あれは きっと海軍のえらい人ですよ…よかったあの子殺されなくて」というセリフと、ゾロの「チッ 七光のバカ息子が…」というセリフ、さらにその後のヘルメッポの「バカ? こら調子にのるなよ おれの親父はかのモーガン大佐だぞ!!」という3つのセリフよって、より具体的にヘルメッポのキャラクター(立場)を読者に伝えてくれています。

「説明セリフ」ではなく、それぞれのキャラが自然に発したセリフによって、読者に伝えるべき情報を端的に伝えていってくれる。わずか1ページで、ヘルメッポのキャラ設定がしっかりと読者に伝わる構成になっています。

おにぎりを踏み潰されるリカ

その後、リカのおにぎりをヘルメッポが奪って食べると砂糖が入ってた、という展開はベタすぎるとは思いますし、マズすぎて「こんなもん食えるかボケッ!!」と踏み潰すシーンは胸糞ではありますが、「大丈夫!! アリならなんとか食ってくれるさ」というセリフのおかげで、(アリの餌になるため完全に食べ物を粗末にしたわけではないという)読者へのエクスキューズを用意しているのもうまいところ。

砂糖おにぎりでなければこのセリフは入れられないので、このベタな小道具を使うことの意味をしっかり回収してくれています。「塩加減を間違えたおにぎり」ではなく、「砂糖おにぎり」だからこそ、食べ物を粗末にする行為に対する読者の嫌悪感や反感を幾分やわらげることができるわけですね。(そこまで意図していたかはわかりませんが笑)

ヘルメッポにおにぎりを踏み潰されるシーンのリカのセリフも、

「ああっ!! やめてよ!! やめて!! 食べられなくなっちゃう!!」

「ああ…!!……!!」

「…ひどいよ!!! わたし…一生懸命つくったのに…!!!」(ボロボロ…)

と一切の無駄がなく、幼い少女の言葉やリアクションとして自然である上、各コマの表情も丁寧に描かれているため(ベタな御涙頂戴展開ではあるものの)きちんと感情移入できます。

このセリフ、今の尾田先生が書いたら次のようになるのではないでしょうか。

「ああ〜やめてェ〜!!! わたしのおにぎりがァ〜!!! もうやめてェ〜〜!!!」

「え〜ん!!! ヒドいよォ〜!!!」

絵は、大口開けて天を仰ぎながら泣き喚く様子で、手描き文字で「うわあああああん」が入るでしょう。

どちらの方が描写として自然で、粋かって話です。

今のワンピースは、全キャラが後者のリアクションをするため、シーンごとの感動の描き分けさえできておらず、全て同じシーンに見えてしまいます。

試しに今週号(1095話「死んだ方がいい世界」)の幼少期くまが天竜人から虐待を受けたシーンのリアクションを見て見ましょう。

「なぜ機敏に動けない!!(バチン!! バチン!!)」

「いたいよ!! ごめんなさい」「え〜〜〜〜ん!!」

これです。

おにぎりを踏み潰されたリカと、奴隷として虐待されるくま。くまのほうがよっぽど悲惨で地獄のような思いをしているはずなのに、その辛さがまるで伝わってこない。

なぜなら、本当に奴隷として虐待を受けている子どもは「え〜〜〜ん!!」なんて記号的な泣き方をするはずがないからです。

くまは「虐待を受けている」という「説明」によって悲劇を表しているだけで、本人の口から出てくる言葉やリアクションにリアリティが一切ない。だから作者の手のひらで「虐待させられている」だけにしか見えず、感情移入できないのです。

奴隷の虐待シーンよりも、おにぎりを踏み潰されたリカのほうがよっぽど可哀想に見えてしまうほどに、今の尾田先生は悲惨なシーンや感動シーンの描写力が劣化してしまいました。

幼い子どもを投げ飛ばすことに抵抗のある下っぱ海兵

リカを塀の外へ投げ捨てろと海兵に命令するヘルメッポ。

その命を受けた海兵は「…は?」と驚き、戸惑うリアクションを見せます。

おそらく幼い女の子への対処としてあまりに酷かったため、一瞬言っている意味が理解できなかったのでしょう。

それを察したヘルメッポは

「塀の外へ投げ飛ばせっつったんだよ!!」

「おれの命令が聞けねェのか!!!」

「親父に言うぞ!!!」

とけしかけ、海兵は「は…はい只今っ!!」と慌てて命令を受け入れて投げ捨てます。

この一瞬の戸惑いやためらいを描くことで、海兵達には善意があり、悪い人間ではないことが伝わります。

このシーンでは、ヘルメッポが女子供にも容赦ないクズ野郎に見えますが、これがこの後(第4話で)モーガンの残忍さやイカれ具合を描く上で(その比較として)効果を発揮します。

ルフィの思慮深さ

投げ捨てられたリカはルフィがキャッチしてくれたため無傷で済み、読者(と投げ飛ばさざるを得なかった海兵)の心は救われます。幼い少女があの高さの塀を越えてそのまま地面に投げ捨てられてしまったら見てられませんからね。

そんなリカに「きみ…大丈夫!?」「なんてひどい奴なんだ…!!」と駆け寄るコビーと、

「…….」と無言で埃を払いながら、何かを考えつつ成り行きを見るルフィ。

やかましく騒ぐわけでも、感情的に殴り込むわけでも、すぐに善悪を判断して(正義の味方面して)ヘルメッポを成敗しに行くわけでもなく、ただ静観することを選ぶルフィの思慮深さがカッコいい。

なぜなら、ヘルメッポは「罪人に肩を入れし者 同罪とみなす」という忠告を無視したリカを(大人なら死刑になっているところ子どもだから容赦した上で)塀の外へ投げ捨て(させ)ただけで、ただ極悪非道な振る舞いをしたわけではないからです。

ルフィはこの時点で、まだゾロがいい奴か悪い奴かもわかっていないし、リカは海軍の忠告を無視して磔場に侵入し「罪人」に肩入れした所を海兵に見つかって追い出されただけ。

もちろん幼い女の子が作ったおにぎりを踏み潰して泣かせた上、塀の外へ投げ飛ばす行為は許されるものではありませんが、だからといって何も知らない他人のルフィが感情に任せて割って入ってケンカしに行くほどのことでもない。

だからルフィはひとまず静観したのでしょう。

しかし読者は、明らかにヘルメッポ側が腐った人間で、成敗すべき悪役であることはわかっています。

だからこそルフィが何も言わずに考えている様子を見て「この後ルフィはどう動くのだろう?」と想像・期待できるわけです。

ここでルフィが怒りにまかせて飛びかかり、速攻でヘルメッポを成敗するようなキャラだったら、あまりにも無思考で頭カラっぽでケンカっ早い主人公による何のひねりも深みもない安易すぎる展開となり、読者は早々にこの作品に見切りをつけることになったでしょう。(悲しいかな、おそらく新世界編のルフィなら「何やってんだお前ェェェ!!!」と言いながらあっさりキレかかっていきそうですが)

ゾロの人間性を見極めようとするルフィ

ヘルメッポ達が立ち去った後、ゾロの前に現れるルフィ。

「なんだてめェ まだいたのか ボーッとしてると親父にいいつけられるぜ」というゾロのセリフと、「まァね」と返すルフィのやりとりが、なんとも言えない強者同士の会話となっていて味わい深い。

ゾロは(ヘルメッポも「親父」も意にも介していないが)今の一連のやりとりから、ややこしそうな奴らであることはルフィにも伝わっただろうから、ここにいるとまたあのバカ息子がやってきて「親父にいいつける」という伝家の宝刀で面倒事になるぜ、と半ば呆れつつも忠告してあげていて、それに対しルフィは、よく事情はわかっていないものの、面倒事になりかねないことはわかる(が特に意に介していない)ので「まァね」と返しているわけです。

「おれは今一緒に海賊になる仲間を探してるんだ」

「海賊だと? ハン…! 自分から悪党に成り下がろうってのか ご苦労なこって…」

「おれの意志だ! 海賊になりたくて何が悪い!!」

この最後のルフィのセリフにきちんと気持ちが乗っていて、確固たる意志を感じられる力強さがあるため、ゾロもそれ以上ルフィが海賊なることを軽んじるような発言はせず、スッと引いてすぐに話の核心に入ります。

「─で? まさか縄をほどいてやるから 力を貸せだの言い出すんじゃねェだろうな」

これに対しルフィは「別にまだ誘うつもりはねェよ」「お前悪い奴だって評判だからな」と返します。

この時点ではゾロは「悪い奴(だから捕まっている)」と聞かされている上、自分が「海賊になりたい」という意志を肯定も同意も共感も応援もしていない立場なので、今はまだ仲間に誘うつもりはないというのは当然の判断でしょう。

人間性を見極められていない時点で仲間に誘うつもりはない、というルフィの意志(ゾロが仲間になることは決まっているからと作者の作為によってすぐに仲間に引き入れようとすることなく、きちんとルフィが自分の意志で判断していること)が見てとれます。

そしてゾロの人間性を認めるきっかけはこの後すぐに訪れます。

ドロのかたまりとなったおにぎりを喰らうゾロ

モーガン編の名シーンといえばここでしょう。

「お前悪い奴だって評判だからな」と言っていたルフィが、ゾロを信用するきっかけとなったシーンです。

ヘルメッポによって踏み潰されたおにぎりを「それ…とってくれねェか」とルフィに頼むゾロ。

ルフィ自身は「食うのかよこれ もう おにぎりじゃなくて ドロのかたまりだぞ?」「いくら腹減っててもこりゃあ…」と既に食べ物ではないものとして扱いますが、ゾロは「ガタガタぬかすな」「黙って食わせろ」「落ちてんの全部だ!!」と言って、そのドロのかたまりを口に運ばせます。

この時点では、ルフィは「ゾロは腹が減り過ぎてて何でもいいからお腹に入れたいから喰わせろと言っているのだろう」と思っているわけですが(おそらく大半の読者もそう思ったことでしょう)、

「バリッバリッモグッ!!」

と涙を流しながら無理して食べ切った後に出てきた言葉が、

「あのガキに伝えてくれねェか…!!!」

「『うまかった ごちそうさまでした』…ってよ」

だったことで、「!」となり(ゾロの真意を知り)、ゾロが悪い奴ではない事がわかって「…はは!」と心を許すわけです。

このゾロの見た目の怖さとかけ離れた心根の優しさには、誰もが心を奪われたことでしょう。

その描き方も粋でカッコよく、ワンピース史に残る名シーンの1つと言えます。

ちなみに、このシーンでは、ゾロの「優しさ」を描く上でいくつか外せないポイントがあります。

まずは「おにぎりじゃなくて ドロのかたまりだぞ?」と先にルフィに言わせること。これによって読者は「ゾロは“ドロのかたまり”を無理して食べようとしている」ことが伝わります。それも、「踏み潰されたおにぎり」や「泥まみれになったおにぎり」ではなく、「(もはやおにぎりとは呼べない)ドロのかたまり」と表現していることも重要なポイントです。

そして「落ちてんの全部だ!!」というセリフ。これは、ゾロが「あまりにもお腹が空いているから一粒残らず腹に入れたい」と思っていて、だからルフィに「落ちてんの全部」食わせるように乞うたように思わせるミスリードにもなっています。

これがあるからこそ、実は「幼い少女が自分のために作ってくれたおにぎりを一粒残らず食べ切る(ことが礼儀だと考えている)ため、ルフィに『落ちてんの全部』拾わせて食べさせた」ということが明かされた時に、よりゾロの優しさや漢気が際立つ描写になっているわけです。

きっとゾロも、普段ならどれだけお腹が減っていてもこんな「ドロのかたまり」を食べようとはしないでしょう。リカという少女が、自分のために作ってくれたおにぎりだったからこそ、ドロのかたまりになろうとも全部残さず自分が食べる(そして感想とお礼を伝える)のが礼儀だと考えたのだと思います。

もちろんあまりの空腹のためどんなものでもいいから何かお腹に入れたかった、という面も多少はあったかもしれませんが、それ以上に、リカの気持ちに応えることの方がゾロにとって重要だったことがきちんと伝わる描写になっています。

なぜなら、ゾロが食べたのは「踏み潰されたおにぎり」でも「泥まみれになったおにぎり」でもなく、「(もはやおにぎりとは呼べない)ドロのかたまり」だったからです。前2つの表現の場合、「あまりの空腹のためどんなものでもいいから何かお腹に入れたかった」可能性が強まり、「リカの気持ちに応えること」の説得力が薄まってしまいます。

「ドロのかたまり」だからこそ、それはただ腹が減っていたからではなく、リカの気持ちに応えたかったから無理して食べたんだな、ということが読者に誤解なく伝わるわけですね。

これら全ての言葉選びやセリフ回しがきちんと意味を持っていて、「これ以外のセリフではこの感動は表現できない」くらい完璧なセリフ回しになっています。

これぞ(尾田先生らしい)「粋」な表現と言えるでしょう。

さて、このシーンでは、ゾロはきちんと「ドロのかたまり」だと認識した上で、涙を堪えて死にそうになりながら無理して食べ、リカの優しさに応えるために強がって「うまかった ごちそうさまでした」(って伝えてくれ)と口にしています。

一方、「ホールケーキアイランド編」でのサンジの母親は、「雨の中落として泥まみれになった上、一度ゴミ箱に捨てられて原型を留めていない異臭を放つ汚物」を満面の笑みで「ん〜〜〜♡おいしいっ!!」と言いながら完食します。

これが御涙頂戴のために小手先テクニックで描いた「ありえない・やり過ぎ・無理のある・不自然すぎる演出」です。もちろん「愛する息子が作ってくれたお弁当なのだから、どんなに汚れていても美味しいと感じる母親の愛情」を描いたというのはわかります。しかし味見をしたメイドが発狂する描写が挟まれるほどマズい汚物を、「母の愛」という説明だけで笑顔で食べ切るという演出は明らかにやりすぎです。

これでは「この母親は味覚障害という設定なのか?」と余計な想像をさせる結果となり、感動シーンに雑音がまぎれることになるため読者は感情移入ができません。

もしゾロがこの「ドロのかたまり」を笑顔でうまそうに食べ切って、「あのガキに『うまかった ごちそうさまでした』って伝えといてくれ!」と意気揚々と口にしていたら、このシーンで感動できたでしょうか?

「ドロのかたまり」を食べる際のリアクションとしてリアリティがなさすぎるため、読者はゾロの内心や考えが読み取れず、共感も感情移入もできなかったはずです。

前半の海の頃と新世界編の「感動」の描き方の違いが、明確に現れているとシーンと言えるでしょう。

コビーの的確な補足説明

ゾロの言葉をすぐにリカに伝えにいき、「ほんと!?」→「ああ! 一つ残らずバリバリ食ってたよ」と笑顔で伝えるところもルフィの優しさが伺えて微笑ましい。

「モグモグ」とか「うまそうに」といった嘘(無駄な説明)は加えずに、「一つ残らずバリバリ食ってた」という事実(しかしリカが喜ぶであろう情報)だけを伝えているところも、ルフィらしい正直さが現れていて好感が持てます。

上記のゾロの振る舞いは、ゾロのことを恐れていたコビーの心も動かし、その評価を覆します。

「あの人…本当に噂通りの悪人なんでしょうか…」

そしてリカからゾロが捕まった理由(ゾロに一切の非がなかったこと)が明かされたことで、「そうか…!! それもそうですよね 彼の気性の恐ろしさはさておき 賞金首を狙う事が罪になる訳ありませんからね」と的確な補足説明をしてくれる。

このコビーのセリフによって、(読者目線で)ゾロは完全に潔白となり、ルフィが仲間に引き込む理由と説得力を強めてくれます。

その後、リカが「悪いのはモーガン親子よ!!」と(このエピソードにおける)悪者を明確にした上で、「少しでも逆らえば すぐ死刑で みんなびくびくしてるの」とその根拠を挙げ、読者の納得・共感を得る展開も早いしうまい。

幼い女の子ながら、勇気も優しさも健気さも人を見る目も頭の良さも表れていて、今やただの露出狂痴女に成り下がった頭カラっぽのナミやロビンよりもよっぽど大人で賢い女性として描かれています。

躊躇なくクズを殴ってくれるルフィ

その後、ヘルメッポが登場して自らその悪行を暴露。

先ほどの磔場では静観したルフィですが、ゾロが悪い奴ではないことがわかり、ヘルメッポとの「約束」が嘘でゾロが騙されていたことを知ったことで、速攻で胸ぐらを掴み、躊躇なく殴りかかります。

この判断の早さと行動の大胆さにルフィらしさがあり、読者をスカッとさせてくれます。

「こいつクズだ」という一言で代弁してくれるのも気持ちがいい。

そして「決めたぞコビー!! 」「…おれはゾロを仲間に引き込む!!!」と決断して、第3話終了です。

もうあまりのテンポのよさと展開のうまさでページをめくる手が止められません。隅々まで計算し尽くされた、濃密で読み応えのある1話となっています。

わずか1話で、ゾロの迫力・カッコよさ・優しさなどキャラとしての魅力を説得力を持って描き、それがルフィの心を動かして、「別にまだ誘うつもりはねェ」と考えていたゾロを「仲間に引き込む」と決断させる。

そしてあれほどゾロのことを恐れていたコビーの心も一緒に動かす。(この点は第4話でより詳しく描かれます)

各キャラの行動や心の動きが丁寧に描かれているため、読者は自然と感情移入しながら読み進めることができるわけです。

そして、ゾロの魅力がこれ以上なく説得力を持って描かれているからこそ、「決めたぞコビー!! 」「…おれはゾロを仲間に引き込む!!!」というルフィの「決断」が、次回への引きとして抜群の効果を生んでいます。

ゾロを仲間に引き込むシーンや仲間になった時のことを想像すると、ワクワクしてしまう。だから早く先が読みたいと思う。これぞ少年漫画の「引き」でしょう。

まとめ

さて、この記事ではセリフ1つずつを取り上げて、あえて深読みをしながら私なりの読解を記してみました。

こんな読み方をしてると「深読みしすぎだ」「自分の思い込みで勝手に解釈・美化し過ぎだ」「強引に感情移入し過ぎだ」と思われるかもしれません。

もちろん、尾田先生がこの話を書いた時は、ここで指摘したような細かなことまで計算して描いてはいないでしょう。それこそキャラ達が勝手に動いてくれるため、息をするように(そのキャラが口にするのが)自然なセリフや粋なセリフ、味わい深いセリフが浮かんできたのではないかと思います。

しかし、だからこそ読者は流れるように読み進められ、物語に没入することができますし、自然と感情移入ができてキャラ達のことを好きになり、彼らの紡ぐ物語を楽しむ(楽しみにする)ことができていました。

それは、尾田先生がキャラ一人一人にきちんと感情移入をして書いていたからこそです。

新世界編以降は、その「感情移入」がどんどんと失われ、作者・尾田栄一郎ばかりが作中に顔を見せるようになってきました。だからどのキャラにも感情移入ができなくなってしまった。

今やどのキャラも同じ(SBSの尾田先生のような)セリフしか吐かなくなり、誰がしゃべっても(誰にセリフを言わせても)何も変わらず、それを補完するために笑い方や口癖といった「記号」を使って区別させるような描写ばかりです。

ここに作者の作為を強烈に感じてしまうため、あれほど個性的だったキャラ達が、全員尾田栄一郎の仮面をつけているようにしか見えなくなってしまいました。

そんな描き方になった今のワンピースで、従来のファン達は本当に楽しめているのでしょうか。

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40 Comments
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匿名
匿名
5 ヶ月 前

この頃はちゃんとそれぞれのキャラ視点で考えてくれて、一つの現象に対しても多面的な反応を描いてくれてたんだな
前の記事にあった”ワンピースの世界ではそれまでは誰も言及していなかったキャラが、漫画に登場してからはさも当たり前のように大衆に認知されてる存在ですというのが目につく気がします。
例えばサボなんかはルフィもエースもダダンもマキノも皆死んでいる存在として扱ってましたが、ドレスローサで再登場以降モブキャラ達は「革命家No.2のサボだ!」と肩書きも実力も知っていた事になってます。
そんな有名人なら新聞読んでるエースやダダンは確実に気がつくだろうに”というコメントを見て、今の尾田先生にサリーとアン課題をやらせてみたら面白いことになりそうだなと思った

匿名
匿名
5 ヶ月 前

ほんとにこの頃はどんどん読みたくなる内容だった
再確認できたことに少し喜びを感じる

匿名
匿名
5 ヶ月 前

なべおつさんのXの25周年記念CM見ました。
「老若男女に愛されるワンピ」(特に若)の作為と押し付けがすごいですね…。
マス広告とはそういうものだと言ってしまえばそうだけど何か「新時代」を謳うくせにあまりのアップデート出来てない旧時代ノリに悲しくなりました。
一度こういう古いエネルギーを断ち切る時ではと感じます。

JJP
JJP
5 ヶ月 前

ここに限らず、不満点は細かく指摘される事が多いですが
逆に面白さとなると言語化が難しいのか、すること自体が野暮なのか、言葉はいらねえ!って感じの扱いが多いので新鮮ですねw
そして改めて見直して比べる事で今の酷さも浮き彫りになると言う…完全に別物ですねもはや

私自身はあまりにも愛想が尽きてしまって集めていたコミックス104巻までまとめて売ってしまったのですが前半の海だけでも取っておけば良かったかなと少し後悔しております

半魚人
半魚人
5 ヶ月 前

ゾロがおにぎりを食べるシーンはグッときますね。
個人的にこういう「キャラクターの生き様が“粋”であること」が、ワンピースをワンピースたらしめているというか、そこに尾田先生の個性やこだわり、あるいは美学のような…そういったものを勝手ながら感じていました。自分がワンピースを好きな要素の一つです。

匿名
匿名
5 ヶ月 前

この間1-12巻の無料公開がされてたので、懐かしいな昔読んでたなと読み始めたのですがあっという間に夢中で読み終えました。
私はワンピースは同じテンプレートの繰り返しが段々と説明過多になって行き、読み難くなったと感じ早々に離れた者です。
初期は多くを語らず、しかし状況や登場人物の心情が伝わり、展開もスピーディで心躍る名作ですね。
このままのクオリティで最後まで描ききることが出来ていたら漫画史に燦然と輝く存在になれたろうに……。

匿名
匿名
5 ヶ月 前

ユーチューブで要所の切り抜きだけ見ると結構面白かったりするから、尾田が引き算だけでも思い出してくれればまだ見れる漫画だと思うんだけどな

匿名
匿名
5 ヶ月 前

ロビン以降の仲間が入ってからごちゃごちゃしてつまらなくなった

何の魅力もないロビン
いてもいなくても変わらない空気のブルック
見た目が生理的に無理な船大工の人(尾田のセンス悪すぎ)

匿名
匿名
5 ヶ月 前

始まってから100話でモーガン、バギー、クロ、クリーク、アーロンを倒して偉大なる航路へ入る。しかも四人も仲間にするとかいうテンポの良さよ。
同じ話数掛けてもワノ国編が終わらないんだから一目瞭然だな。

そして内容で見た時にも船員の回想や現地でのバトル、後引かない船出。ワノ国編が何一つ勝る部分の無い構成。そんでこれより酷くなるエッグヘッド編、展開重視のただ胸糞悪いだけの回想。完全にベツモンだろ。

Last edited 5 ヶ月 前 by 匿名
匿名
匿名
5 ヶ月 前

何度読んでも、このコビーと後々のコビーが一致しない…
何でこのキャラが2年?修行するだけでオネスト何ちゃらを放てる強者になれるのでしょうか。

匿名
匿名
5 ヶ月 前

とても面白い記事でした。
初期の頃のお話を読んでいて面白いとは思いつつもそれを言語化したことは無かったため、改めて分析している方の意見を見て自分の中の気持ちに納得したし、読んでいて楽しかったです。
批判記事と比べてコメント数は少なくなってしまうかと思いますが、ぜひ続けて頂きたいです。

匿名
匿名
5 ヶ月 前

初期はキャラクターも魅力があってセリフも演出も最高だったと思う。
編集担当者にも恵まれてたとは思うけど先生自身も飛びぬけたセンスの塊だったのは間違いない。
今は50近いお歳になってしまい感性も当時とは変わってきているのは当たり前とはいえ別人レベルで作品の質が劣化してしまいました。
ラストの章に突入との事でもう手遅れな部分もあるかもですが、今の酷い状況に向き合い少しでも良くなるように立て直してもらいたいですね。

匿名
匿名
5 ヶ月 前

昔の良い点のみではなく、最近のワンピースの悪い部分と対比されているので、大変分かりやすいですね。
良い記事をありがとうございました!

匿名
匿名
5 ヶ月 前

もし新世界以降だったらシリーズ面白いですね!
容易に想像できてしまいます笑

「バカ? こら調子にのるなよ おれの親父はかのモーガン大佐だぞ!!」

これも新世界だったらモブ海兵に

「えーー!!アレはモーガン大佐の一人息子ヘルメッポさん!?」て言わせたりとか

ヘルメッポ「何ィ!バカだとォォ!?許さん!!親父ィィ!!😡💢」

みたいになるんだろうなぁ…

匿名
匿名
5 ヶ月 前

なぜ昔が面白くて今がつまらないのかすごくわかりやすい記事
売れたいというハングリーさと編集者の大局観に従う謙虚さ、これがなくなったらクリエイティブな仕事はやめた方がいい
他山の石として自分も肝に銘じたい

匿名
匿名
5 ヶ月 前

初期のワンピースは一言で言えば丁寧。
展開やセリフをしっかり考えて描いてるおかげでテンポの良さと密度の高さを両立出来てる。
この丁寧さを維持していれば文句なしで日本一の漫画だった。例え売上で別の作品に負けていたとしても。
反面、今のワンピースは考察野郎向けの情報冊子でしかない。
何が言いたいかというと漫画である意味が皆無。今のスタイルなら別に絵を描かずに文章だけ並べても問題なく成立してしまう。
初期が優れていたからこそ、今の体たらくが残念でならない。

匿名
匿名
5 ヶ月 前

あまり漫画買わない俺が遊戯王と並んで唯一集めてた漫画だったんだけどなあ。それほど夢中になったけど俺はモリア編で脱落した。なんかその辺から寒い三流お笑い芸人みたいなギャグが増えてきてムリになった記憶がある

匿名
匿名
5 ヶ月 前

何が上手いかって、おにぎりの件でゾロとヘルメッポと少女の人間性をまとめて描いている所。その後ゾロは少女を守るために、馬鹿息子の飼い犬を斬り捕まった事が明かされ善悪がハッキリする。モーガン率いる海軍支部が悪となればコビーも絡んでくるし、いよいよゾロを仲間にしたいルフィは戦うことになる。
そして最後はコビーを彼の夢の為にけしかけて、爽やかに別れる…。

少ない人数でそれぞれが上手いこと立場や目的によって行動する理由付け、この辺りの導線がホントにテンポ良いなぁと思います。余白があって読みやすく、ほとんど別人級の漫画ですよ。
結局描き込みの量とかキャラの多さじゃないんです、質なんです。

あのゾロのカッコよさは手拭い含めた「黒ベタ」が良い味を出してると思いますね。

Last edited 5 ヶ月 前 by 匿名
匿名です
匿名です
5 ヶ月 前

モーガン編の面白さを解説して頂き、ありがとうございます!この頃はセリフの一つ一つからキャラクターの心情が伝わりますね。全てのコマに無駄が無く、5話という少ない話数の中で綺麗に纏められているのが凄いなと改めて思いました。だからこそ今と比べてしまうと、本当に悲しくなりますね···。今後も前半の海の解説を楽しみにしています!

匿名
匿名
5 ヶ月 前

何となく楽しく読んでいた漫画のどこがどう面白いかを明快に言語化してくれていて読み応えがある。前半の海全て書いてほしい。

匿名
匿名
5 ヶ月 前

単行本売っちゃったけど、この記事を読んだら読みたくなってきた…笑
なべおつさんは文章を書くのが本当にお上手。

匿名さ
匿名さ
5 ヶ月 前

モーガン編5話って凄いな 今ひとつの話で何話使ってるんだ?

匿名さ
匿名さ
5 ヶ月 前

素晴らしい記事 言語化がよくできてる

匿名
匿名
5 ヶ月 前

序盤は常にゾロにデバフかけて敵とのパワーバランス調整して緊張感持たせたり、ほんとに神がかってた。
ネットが普及してなくて考察マンとかの声が尾田に届かない環境だったら神漫画として全うしてたのかな?

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