この記事は、2019年9月に公開した記事に一部加筆・修正して再編集したものです。元の記事は2019年のものなので、その時点での原作に対する言及となります。
「新世界編」以降のエピソードで、特に「つまらない」と酷評されることの多い「魚人島編」。個人的に大枠のシナリオはかなり好きで、名作になりうる要素を持っていると思っています。
特に「過去編」が素晴らしく、オトヒメ王妃とフィッシャー・タイガーの信念や行動、生涯の終え方、見せ場のセリフや「タイヨウへ続く道」という表現のセンス、伏線回収の仕方まで、とても質の高い内容にまとまってると思います。
しかしながら、「魚人島編」には重大な欠陥がいくつもあり、それによってストーリー全体が茶番化し、「つまらない」と酷評されることになってしまいました。
「魚人島編」の問題点とは、大きく以下の3つです。
- サンジがただの「鼻血ギャグ要員」と化し、ギャグとシリアスのバランスが崩壊して感情移入できなくなる。
- キャラクターのセリフが「説明文」となり、文字数が激増する。
- コマに描かれているキャラ全員にしゃべらせようとするため、吹き出しの占める割合が異常になり、絵が窮屈で見づらくなる。
2つ目と3つ目はよく指摘されていますよね。「魚人島編」の連載当時は、私もまだワンピースへの熱量が高かったのでなんとか読めていましたが、今改めて見直すと「このセリフいる?」とツッコミたくなるような無駄コメントが大量にあるためテンポが悪く、大量の吹き出しによってコマの余白が埋められているため、画面が窮屈で見づらく、ストーリーが頭に入ってこないのです。
目次
サンジの鼻血キャラについて
私がもっとも不要だと思ったのが、サンジの鼻血キャラ設定です。ギャグとして全く面白くない上、「差別」というシリアスなテーマの中に入れるギャグ要素として不適切で、読者の感情移入を阻害する要因にしかなっていません。
人魚の形の鼻血を「ブバァ〜ッ!!!」と大量放出したシーン、笑えばいいのか心配すればいいのか本気でわかりませんでした。鼻血の絵をギャグとして描いている以上、読者はギャグとして受け取るわけですが、それに対する他のキャラ達は、「サンジ〜〜〜!!!」「今の血の量やべェぞ サンジ!!」と、不自然なほどに深刻なリアクションをしています。
鼻血をギャグで描くなら、周りの反応もギャグにしてもらわないと、読者は感情移入できないですよね。
なんでこんなクソつまらない茶番シーンを入れ流必要があったのでしょうか。ナミにボコボコにされて歯が折れたルフィに対して「やべェぞ ルフィ!! 歯が折れちまってる…!!!」と深刻な表情でコメントさせているくらい意味不明でおサムい演出です。
もちろん、サンジ(人間)が魚人から「輸血」を拒まれる(=差別される)様子を描くために入れた設定というのはわかりますし、「差別」という重いテーマだからこそ、あえてギャグ要素を入れて(暗くなり過ぎないように)バランスを取ろうとしたのかもしれません。
しかしこれは完全なる失敗だと言い切れます。
ストーリーの根幹となるテーマに対して「非現実的なギャグ要素」を入れてしまうと、読者は感情移入ができなくなってしまうからです。
ただただ物語を茶番化させ、読者の感情移入を阻害し、サンジの魅力も削ぐだけという誰も得しない設定なのに、なぜ編集者はOKを出したのか不思議でなりません。
ストーリーの根幹となるテーマが初っ端から茶番化しているわけですから、「魚人島編はつまらない」と言われるのも当たり前でしょう。ファンとしてもフォローのしようがありません。
何より、サンジにあんなギャグ設定の鼻血を吹かせる必要などストーリー上まったくありませんでした。オトヒメ王妃やフィッシャー・タイガーの過去のエピソードが素晴らしい出来で、十分にシリアスとギャグのバランスが取れているわけですから、魚人と人間のあいだの「血」の争いは、このエピソードに収めるだけで十分。
その上で、
- ルフィがホーディ戦で受けた傷から大量出血し、魚人達に輸血を求める
- まだ魚人達の多くは受け入れられずに困惑してしまう
- そこに差別心などカケラもないジンベエが登場して「”タイヨウ”へと続く道」を魚人達に見せる
という描写を入れればよかった。
まぁ正直なところこのシーンも、過去にどれだけルフィが出血しても輸血の描写なんてほとんどなかった(肉喰えば治るって言ってた)のに、急にチョッパーが「輸血しないと死んじまうよ!!」とかいって強引にシリアスな展開にしてるのも茶番感がありましたが、輸血の管を「”タイヨウ”へと続く道」と表現するセンスが素晴らしかったので、そこは目をつぶりましょう。
要するに、
- カマバッカ王国での2年間によって、女性への免疫が失われたサンジが、
↓ - 美しい人魚たちを前に鼻血で大量出血し、
↓ - 輸血がなければ死んでしまう状況に……
なんてギャグとシリアスを強引に混ぜ込んだ茶番設定をきっかけにしなくても、輸血拒否(=差別の実態)については描けますし、むしろ雑音がない分、読者は感情移入しやすく、話のテンポもよくなって読みやすくなったはずなのです。
こういう無駄な要素を、編集者がきちんと指摘して削ってほしいんですよね。。
サンジの鼻血設定、何の役に立ったんですか? 本当に必要でしたか?
新世界編では、サンジの鼻の穴の膨らませ方も下品でキモいオッサンでしかなく、なんでここまでサンジを貶めてしまうのか不思議でなりません。
シナリオ自体は「差別」について深く考えさせられる素晴らしい内容なのに、本筋以外の雑音が多すぎて、ストーリー全体が茶番化してしまっているのが本当に残念です。
「ノア破壊」のクライマックスシーンも茶番が過ぎる
魚人島の冒頭から感情移入が阻害されたため、ルフィがノアを破壊するクライマックスのシーンも茶番感がすごくて感情移入ができませんでした。
たとえば海王類が船を引き上げるシーン(第647話 p.16)では、「わずかに遅れたら島は救えど ノアは完全に破壊されていた…!!」と言わせているものの、船の絵を見ると、どう考えても「わずかに遅れたら〜完全に破壊されていた」と言えるだけの損傷をしておらず、全体の5%くらいしか壊れていないのです。
つまり、絵や描写で「わずかに遅れたら島は救えど ノアは完全に破壊されていた」ことを表現するのではなく、ただ言葉だけで読者に「そう」だと説明しているだけなわけです。
しかも「そこを壊しても意味ないだろ」ってところばかり壊しているので、ルフィの行動に全く感情移入ができません。竜骨から破壊しなきゃ、位置を変えながら最後の最後まで殴り続けなきゃいけないじゃないですか。
もっと言うと、そもそもノアを真上から破壊したところで、同じ質量の残骸が全てそのまま魚人島に落ちるわけで、それがなぜ魚人島を救う唯一の方法として選ばれて、みんなが声を上げて応援することになるのか全く理解できません。
ブログでこの点を指摘したら、次のようなコメントがきました。
“ いや、バラバラにしたら一点にかかる荷重が分散されるんだから、衝撃は全然違う。3キロの鉄アレイを1mから落す衝撃と3キロの米粒を1mから落とす衝撃が下にあるダンボールに与える結果が同じかどうか考えたら分かりそうなんだが? ”
物理法則に詳しくないのでよくわかりませんが、最終的に「ほぼ同時に」「同じ重量のもの」がのしかかってくるわけで、そのタイムラグはほとんどなく連続して落下してくるんですから、結果は変わらないと思うのは私だけでしょうか?
また、たとえば、ルフィが船の下に回り込んで船体を破壊するのであれば、多少なり落下スピードを落とすことができるので、そうしてみんなが逃げる時間を作っていると言えるかもしれませんが、重力で落下中のノアに上からパンチを加えたら、その圧力によって落下スピードはむしろ加速するはずで、どう考えても魚人島を救う方法になっていないんですよね。
この点、物理に詳しい方は「ルフィがノアを破壊し切れば魚人島は救われる」と言えるのか(自分が魚人島にいるとして、そのルフィの行動を応援できるか)をぜひ教えていただきたいです。
ルフィの表情だけ本気で焦っているように描いて、ヤバさや緊張感を伝えようとしていますが、このシーンをハラハラしながら魚人島の先行きを心配して読んだ人っているんでしょうか。
「漫画なんだから、どうせ最後はみんな助かるだろう」という元も子もない推測ではなく、設定が甘すぎて「このままじゃ魚人島がやばい!!」「ノアを破壊すれば魚人島は助かる!! ルフィ頑張れ!!」という最低限の感情移入ができないのです。
ルフィが船体を下から馬鹿力で止めて時間を稼ごうとするとか、しらほしと協力して魚人島から逸れる位置に船体を引っ張ろうとするとか、そうした(無茶だけどそれができれば確かに魚人島は救われると思える)行動のなかで、「ダメだ…どうにもならない」と絶望して、最終的に海王類が助けてくれる、という流れの方がずっと自然だと思うわけです。
まぁ「ジョイ・ボーイとの約束を果たせない」というセリフを入れるためには、「ノアを破壊(しようと)する」描写を入れざるを得なかったのでしょうが、それにしても、もっと納得感のある、感情移入できるやり方でまとめて欲しかった。
だって、ノアを破壊して魚人島を救うって言ってるのに、その背後には「ストーリー上、ノアを完全に破壊し切るわけにはいかないから、ルフィには竜骨からは破壊させない」という御都合主義(魚人島を救ってるように見せつつも、ノアを完全に破壊させるつもりはない、という作者の意図)があからさまに見えてしまうんですもん。
このシーン、本当に入念に練って決まった展開だったのでしょうか。細部まで練りきれていないため、キャラクターたちの思考や感情ではなく、どうしても作者の意図によって強引に動かされているように感じてしまいます。
こうした展開が「新世界編」以降とにかく多い。そのせいでキャラクターの魅力や物語の説得力が削がれ、「つまらない」と評価されることが増えてしまっているのです。
まとめると、「魚人島編」は、サンジの鼻血シーンによってギャグとシリアスのバランスが崩壊した結果、最大の見せ場であるシリアスなクライマックスシーンでさえも茶番にしか見えなくなる、という最悪のエピソードになってしまいました。
おそらく最終章の(よく考察で言われている)ワンピースのクライマックスシーン(レッドラインを破壊➡魚人島も破壊➡︎ノアの方舟で脱出)につながる伏線が含まれた重要な章だったというのに……なんでこんなクソみたいな内容にしてしまったんだか……。
当時の編集者には激しい怒りを感じます。
キャラのセリフが「説明文」となり文字数が異常に増える
たとえばシャボンディ諸島を出発して、コーティング船で「魚人島」に向かう間のシーン。
「本当に平気なの!? この流れに乗って!!」と心配するナミに対し、フランキーが「船の心配はするな!! サニー号は宝樹アダムより生まれた最強の船だ!!」と返すのですが、これ、あまりにも説明的すぎると思いませんか?
ナミに向けたセリフではなく、(長期連載になりすぎて過去の細かな設定を覚えていない)読者に向けた「説明」のために言わせているようにしか見えず、作者の意図を感じてしまい物語に入り込めません。
「船の心配はするな!! サニー号はこれくらじゃビクともしねェ!!」くらいが自然な「セリフ」ではないでしょうか。
またその後のカリブーのセリフ「おい!! “麦わらの一味”!! すぐに引き返せ!!! やべェぞ!!!」「下をよく見ろ!! 怪物がいる!!!」「アレがここに住みついてるなんて聞いた事がねェ!!!……!!!」「殺戮に飽きる事を知らず……船を狙って大海原を駆け巡る悪魔!!」「人間の敵!!!」というのも説明が過ぎてリアリティも緊張感もありません。
もっとひどいのはその後のブルックのリアクションです。
「ゴースト船〜!!?」「おめーがびびんじゃねェよ!!!」までならギャグとして受け入れられますが、その後の説明はもう読むのもめんどくさくなるくらい情報量が多い。
「アレは本物ですよ!!」とか「有名な船」とか「この世にあってはならない船」とか「それはもう数百年も前のお話」とか……指摘し出したらキリがないレベルで不要な言葉が盛りだくさん。
これ、編集者はちゃんと校正したんでしょうか? 重複情報や無駄な言い回しが多過ぎて、セリフとしても説明としても磨き上げられていないのが明らかです。
「新世界編」以降はブルックがとにかくうるさくてしゃべりすぎで、読者を苛立たせる存在になっていますが、ブルック以外のキャラについても、みんな自分の意思で言葉を発するのではなく、尾田先生がキャラに「言わせている」「説明させている」ように感じるシーンが大量に描かれるようになりました。
それによってキャラクターへの感情移入ができなくなり、キャラの魅力や存在感がどんどん薄れていってしまっているのです。
吹き出しの占める割合が多く、絵が窮屈で見づらくなる
これは第604話のp.12〜14あたりを見ていただければ一目瞭然でしょう。
どのコマも少しの隙間がないくらい、異常なまでに吹き出しがつまっています。ページの半分が吹き出しで占められているといっていいレベルで、まるで絵を描くスペースを減らすために、無理やり吹き出しを敷き詰めているかのようです。
しかもほとんどのセリフはなくても問題ないものばかりで、そのキャラクターが言いそうにもない言葉を強引に言わせているような印象なのです。
ルフィの「え? いったい何だそのもう一つの条件とは!? はたして!?」とか違和感でしかないでしょ。ウソップの「塩分濃度がなんだって!?」もブルックの「歌いませんか!? ナミさん!!」も不要です。
なぜこんな無駄な言葉を残したまま世に出してしまうのか不思議でなりません。「なくても意味が通る言葉はカットする」という編集の基本ができていない。
こうした無駄なセリフをカットすれば、もっとテンポよく読めて、ストーリーの本筋や見せ場のシーンが際立つようになるのに、不要な情報を詰め込み過ぎて(というより編集者が引き算をしなさ過ぎて)メリハリがなく、ずーっと盛り上がりに欠ける単調で退屈な展開が続いている(ように感じてしまう)のが「新世界編」以降のワンピースです。
また「魚人島編」は敵キャラも中途半端で、2年間の修行の成果としてルフィ達に圧倒させたいのか、苦戦させたいのかがわからず、バトルに緊張感も爽快感もありませんでした。
総じて、ワクワクドキドキする少年漫画・バトル漫画としてのセンスが感じられないエピソードとなっており、「これ本当に同じ作者が描いたんですか?」と疑いたくなるレベルで、「頂上戦争編」の面白さや勢いを完全に削ぐだけの駄作エピソードとなってしまいました。
新世界と魚人島の名前が出た当時は最終章とは言わなくともいよいよストーリーも佳境に入ってくるんだと思ったのですがね。
それこそ魚人島で四皇の一人と衝突してもよかったのに。
それを再集結してから最初の島という2年後の序盤シナリオ枠にあてがわれてしまったために構成も敵キャラもバトルもパッとしない中途半端な章というのが今振り返った魚人島の感想ですね。
そしてここから迷走と言う名の終わりの始まりになってしまったと。
2年後のワンピースはドラマやRPG作品によく見受けられる非常に出来の悪い「2」と同様の感想を持ちました。
再び序盤からスタートする為に前作の経験や成長をまるで無かった事にされ魅力を失ったキャラクター、時間の経過を演出するために不自然に変えられたデザインと性格、新キャラ新設定の為に生まれた過去ストーリーとの矛盾等々。
この魚人島編からアニメもかなりクオリティ大きく下がるんだよな(放送初期からクオリティは軒並み低かったが)。戦闘シーンが紙芝居になってるし、アニオリで追加されたホーディの過去回想なんてそのあとは原作通りに進むもんだから矛盾が生じたわけだし