この記事は、2019年10月に公開した記事に一部加筆・修正して再編集したものです。元の記事は2019年のものなので、その時点での原作に対する言及となります。
「新世界編」以降、別の作品かのようにつまらなくなってしまった「ワンピース」。
一体何が変わってしまったのか、具体的に何が問題なのか、章ごとに振り返りながら根本原因を指摘していきます。
今回は「パンクハザード編」。
連載当時は「なんだか暗くて面白みにかけるエピソードだな」と思っていましたが、後から振り返ると「新世界編」の軸となる展開(vsドフラミンゴ、vsカイドウ)に向けた重要なエピソードとして随所に伏線が散りばめられており、さすが尾田先生だなと思わされる部分も多々ありました。
赤犬と青雉が戦った島という設定や、ローの七武海入りなど、2年後の変化がわかる要素が散りばめられてるのもいいですよね。
「パンクハザード編」をつまらなくしている根本的な問題点は、大きく以下の3つです。
- ローの「シャンブルズ」による「精神の交換」という無茶&蛇足設定。(今後使われることのないであろう特殊ギャグ設定をわざわざ入れる必要があったのか)
- 心臓を抜かれても生きられるという設定によって「死」に対する緊張感がなくなり、「どうせみんな助かるんでしょ笑」という冷めた見方がより一層強くなる。
- にもかかわらず露骨なお涙頂戴展開が多いため、感情移入できない。
目次
心臓で精神が入れ替わる蛇足ギャグ設定
連載当時、スモーカーVSローの場面で、スモーカーの心臓が抜かれたあたりは衝撃でかなり興奮し、「え、スモーカー死んだ…!? どうなっちゃうんだ…!」「ワンピースもこういうエグくてスリルのある話が描けるんだ…!」と久しぶりにハラハラ・ドキドキしたのを覚えています。
しかしその後、「心臓の交換で精神が入れ替わる」という特殊ギャグ設定によって、その緊張感は一気に台無しに。。この設定、絶対いらなかったですよね? そもそもいくら悪魔の実の能力とはいえ「心臓」に人格や声、脳の情報が入っていてそれらを入れ替えられるって、「オペ」の能力を超越しすぎていると思いませんか。
もっというと、ローのぶった切り能力は「ルーム」内でしかできないのに、切った後はどれだけ離れても能力が持続して問題なく生きられるという設定も、整合性が取れておらずご都合主義の極みだなと思います。(ベビー5とバッファローの首だけヨットに載せてたシーンとかね)
スモーカーの心臓をたしぎが奪い返しにいくとか、その過程で麦わらの一味と共闘するとか、もっとワクワクできる展開はいくらでもあったはずなのに、なんで「精神が入れ替わる」という非現実的で面白みもない、何でもありのギャグ設定にしてしまったのか。。
麦わらの一味の精神が入れ替わる展開も、ただただわかりづらさ(読みづらさ)が増しただけでストーリーの根幹になんの影響も与えていません。つまり蛇足です。
チョッパーの体にフランキーの精神が入って普段は見られない表情が見られたなど、好意的に捉えているファンもいるようですが、そんなもんSBSでやっておけばいいレベルで、本編で採用するほどのネタではないでしょう。
何度精神を入れ替えられても副作用さえないのもチートすぎて、作品のバランスを削ぐだけの大きな汚点要素となりました。
この「シリアスとギャグのバランスが全く取れていない」(ギャグ要素がストーリーの「根幹」に浸食しすぎていて、緊張感や面白味を削いでいる)というのが、「新世界編」での大いなる欠陥であり、ワンピースの質を貶めている原因の一つです。(「魚人島編」がつまらなくなったのもこのバランスの崩壊が原因です)
「新世界編」以前は、このあたりのバランスが(ある程度しっかりと)とれていたため、どのエピソードも面白い、ワンピースすげぇとなったのです。
編集者には、こういうところを指摘してきちんと仕事して欲しいんですよ。。尾田先生の描きたいことをそのまま描かせるだけではなく、客観視点、俯瞰視点を持って、これまで築き上げてきた世界観を潰すことなく、そのアイデアを取り入れる方法をきちんと考えて導いて欲しいんですよね。。
たしぎがただのお涙頂戴要員に成り下がる
たしぎは今回も何の役にも立たず、ただただプライドをへし折られて涙するばかりの無能海軍の役回り。
毎回ツワモノたちから圧倒的な力の差を見せつけられ、にもかかわらず殺してもらえず、情けを受けることに抵抗して「殺せ」という割にのうのうと生き続ける茶番にもう辟易してしまいます。。そんなに殺されたいのなら自害すればいいのに。。気位が高いのか低いのかよくわかりません。
仲間たちがスマイリーの爆発に巻き込まれて(スモーカーの姿で)涙ぐみ、
仲間たちが毒ガスにやられて泣き、
励まされて涙をぬぐい、
ヴェルゴに裏切られて泣き、
サンジに助けられて泣き、
子供たちを自分に預けてもらうために泣き、
同僚がみっともない真似をしたことを注意するために泣き、
最後は笑いながら泣くという。
「パンクハザード編」だけでこれだけ泣いてるんですよ?
いつからこんなに安っぽい涙ばかり流すキャラになったんでしょうか。。たしぎを泣かせて感動を誘おうとする描写が露骨&しつこ過ぎて、なんの感情移入もできません。何かあればすぐ涙ぐむ、たしぎこそしらほし以上の「泣き虫」でしょう。
「アラバスタ編」で自分の無力さを思い知り、涙を見せずに気丈に振る舞いながらも、最後に堪えきれずに泣いてしまった、あの「強い」たしぎはどこへ行ってしまったんでしょうか。。
このシーンの評判がよかったからか、たしぎに泣かせとけば感動させられると味をしめたかのように「新世界編」では泣くしか能のないキャラになってしまいました。
その影響でゾロのライバル的な立ち位置からは完全に離脱。2年後で少しは実力が肉薄する描写があっても良かったでしょうに、ただのお涙頂戴要員の無能ぶりっこキャラとして完全に切り捨てられてしまいました。
スモーカーやたしぎが麦わらの一味を追って来ようとも、もはや雑魚すぎてなんの緊張感もなくなってしまうシマツです。海軍の成長速度だけ異様に遅いのはなんでなんでしょうね。。
スモーカーの心臓を取り返しにいくところをヴェルゴやモネに阻まれ、麦わらの一味の力を借りることになり、悔しくて泣く(が、最終的にとどめを刺して心臓を取り返すのはたしぎ)というような流れならまだしも、あの安っぽい涙のオンパレードで読者に無力さを披露するばかりでは、たしぎの魅力はどんどん失われていってしまいます。
女性キャラが涙を流せば即読者が感動してくれると思ってるんでしょうか。。涙もろいとかいうレベルではありませんよあの泣きっぷりは。涙を流してよかったのは、仲間たちが自分を身代わりにして毒ガスからたしぎを救ったシーンだけ。それ以外の無駄な涙を描かずにいてくれれば、たしぎの威厳は守られたはずです。
たしぎ好きだったのに…「パンクハザード編」がきっかけで大嫌いなキャラになってしまいました。
「シノクニ」の驚異を無に帰す茶番展開
また、毒ガス兵器「シノクニ」によって硬化させられたキャラ達が全員無事だったというのも茶番がすぎます。この茶番に付き合わされて怒ったり涙したりしてるキャラたちが可哀想なレベルです。
「どうせ死なない」って、作中の人物たちもそろそろ気づいて然るべきなのに、ちゃんと死ぬかもしれない前提でリアクションさせられるキャラたちが哀れでなりません。それに付き合わされる読者はもっと可哀想。
ワンピースでは、どんな残酷な展開が描かれようとも誰も死なない、「死」が脅しにならないということをさらに深く読者に知らしめるエピソードとなりました。科学兵器でも死なないんですから笑 この分だと心臓をナイフで貫通されたモネさんでさえも生きてるんじゃないでしょうか?笑
シノクニで海軍の連中が硬化させられたシーンでは、『はだしのゲン』のような不気味さとグロさを感じて、ワンピースでこんなえぐい描写が出てくるなんて…とハラハラしたのに…
↓フタを開けてみたらこれですよ。
ブルック「わ…わわ 私も人殺しを!!!……いやもう死んでたキンエモンさんを 割っちゃいましたァ〜〜〜!!!」
サンジ:死んだ上に割れたのかー!!!
ルフィ:「死に割れたー!!!」
ピキピキ パリィン!
錦えもん:「ん?」
錦えもん:「んだああああああ!!!」
一同:「ぎゃあああああああァ〜っ!!!」
サンジ:「何で生きとんじゃァ!!!」
錦えもん:「ゲフゥ!!!」
硬化したのを後からローなりチョッパーなりが医学的に助けるって話ならいいんですけど、表面が硬化してただけだから砕いたら元どおりって、、、ここにもギャグ設定入れちゃうの…? なんであの危機感や緊張感を無下にするような描写を入れてしまうの…? と思いませんか。たしぎの涙はなんだったんでしょうか。。
錦えもんを硬化させて、割れて解けたシーン、絶対いらなかったですよね? だってなくてもストーリー進行に一切影響ないんですから。なんであそこまで脅威を煽った毒ガス兵器を無能化するだけの要素を入れ込んでくるのか意味がわかりません。
ドフラミンゴを雑魚キャラに貶めるクソ展開
さて、「パンクハザート編」最大の失策(大罪)は、697話〜700話でスモーカーとドフラミンゴをただの雑魚キャラへと変えてしまったことです。
四皇(カイドウ)の脅威を伝える上で力関係(カイドウ>>>>>ドフラミンゴ>>>>>スモーカー)を明らかにしたかったのかもしれませんが、まだ対決する前のドフラミンゴや(一応グランドラインに入る前からのライバルとして)今後再戦が期待されるスモーカーの評価を、このタイミングで地に落としてどうするんだと。
このシーン(と、四皇にビビりまくりのドフラミンゴにこの後スモーカーさんが瞬殺されるシーン)のせいで、「ドレスローザ編」の緊張感(とスモーカーとの再戦への期待感)は完全になくなり、読者は「ドレスローザ編」の読み方がわからなくなってしまいました。次の章は四皇にビビりまくる雑魚キャラがボスなんですね……笑
ドフラミンゴを打倒した後で、ドフラミンゴとカイドウを繋ぐキャラ(たとえばジャック)から、「これでお前はカイドウ様に消される」的な脅しを受けてビビるのであればまだわかるんですけど、対決前にローに言われて冷や汗かいてビビるって……
この辺りは当時の2chでも笑いのネタにされるレベルで、正直ファンとしても擁護のしようがないくらいの失策だったと思います。
そもそも、「頂上戦争編」で世界最強の男(カイドウよりも懸賞金が上)である白ひげを前にしても一切ビビることなく、なんなら不敵な笑みや高笑いをしまくっていた “悪のカリスマ” ドフラミンゴさんが、なんでカイドウに対しては急に冷や汗かきまくり、ローに交渉負けするような無能っぷりを発揮することになるのでしょうか。
「頂上戦争編」のとき、いざ白ひげの矛先が自分に向いたら冷や汗混じりで「ヤバイ消される……💦」って焦ってたってことなんですかね? ルフィ、ゾロ、サンジたちは四皇が相手でも一切ビビることなく、なんなら積極的に喧嘩を売っていくキャラなのに、七武海で「悪のカリスマ」のドフラミンゴさんがなんでこんなにビビらなきゃいけないんですか。。
七武海が四皇にビビる設定、絶対にいらなかったと思います。
ドフラミンゴの初登場以降、彼との直接対決を心待ちにしていた私としては、この辺りから怒りに近い感情が芽生え、「ドレスローザ編」を全く楽しむことができませんでした。
で、最終的にルフィに負けてインペルダウンに連行されてからは、元どおり高笑いしながら偉そうに世界を俯瞰して強キャラ感を発揮してくるという。。
いや、あんたもう遅いって、、、今更イキったってただのギャグにしかならないから。。
あんなに魅力的だった敵キャラをここまで貶めてしまった時点で、「パンクハザード編」から「ドレスローザ編」にかけての展開は完全なる失策であり、作品の質を著しく低下させた汚点エピソードとなりました。
また、スモーカーもあんなに強キャラだったのに、2年後はこうもあっさりツワモノたちについていけずに振るい落とされてしまうなんて残念でなりません。
スモーカーがやられる直前に、青キジが「友達」として登場して止めるシーンはよかったので、スモーカーについてはヴェルゴとの戦いでのダメージが大きく、力を使い果たしていた、という設定をもう少しわかりやすく伝えるべきでした。(麦わらの一味がスリラーバークでくまと戦闘するシーンや、シャボンディ諸島でのPX4撃退後に黄猿たちと遭遇したシーンのように)
そうすればまだルフィとの再戦への期待は維持できたはずなんです。
大した怪我もしてない上、サンジの作ったスープを飲んでしっかり回復しちゃってるし、、
これでドフラミンゴから一瞬で切り刻まれて敗北するって….もっとキャラクター1人1人を大切にしてほしいものです。スモーカーを切り捨てるシーンは、どう考えても「パンクハザード編」にするべきではありませんでした。
またドフラミンゴについては、あんなに汗だくで露骨に焦ってるのに強がってるようなクソダサい描写にするのではなく、もっとクールに、自分の方が一枚も二枚も上手だからローの作戦もわかっていて、乗ってやっても問題ない、そんなもの脅しにならないという描き方をするべきでした。最終的に七武海は辞めておらず、ローに一杯食わせてやった展開になるわけですから。
ドフラミンゴに焦らせないと、ローたちの作戦がうまく行っているように読者を錯覚させられないからそうしたんでしょうけど、それによって対戦前の敵キャラの魅力を削いでしまっては元も子もありません。このバランス感覚のなさ、本当に尾田先生が描いたのか疑いたくなるレベルです。
別にカイドウの脅威を伝えるために、ドフラミンゴの評価を落とす必要なんてないんですよ。。なんでこれから戦うボスキャラを雑魚化しなきゃいけなかったのか謎すぎます。
ほとんどの読者は「え、、あのドフラミンゴがここまでビビるって、カイドウってそんな強いやつなの…!? やばすぎる…!!!」という反応よりも、「いやドフラミンゴさんどうした笑 今までイキりまくって強キャラ感出してたのに急に縮こまっちまって…」という失笑の方が多かったはずです。
カイドウの驚異を伝えるのは、第795話「自殺」の初登場シーンだけで十分。
わざわざドフラミンゴに冷や汗をかかせて貶める必要なんてなかったんですよ。。
この辺りも編集者仕事してくれよと思わずにはいられません。なんでこれまで築き上げてきたドフラミンゴの邪悪で圧倒的実力を持つイメージを、戦う前から地に落とすような真似ができるのでしょうか。それが正しいだと思えちゃうんですか。。ほんと、”悪のカリスマ” の異名が泣いてますよ。。(「新世界編」以降に付けられたこの異名のセンスもどうかと思いますが…)
そのくせ実際に戦ってみたらアホみたいに頑丈で、これまでのワンピースのダメージの概念を覆すような戦闘が描かれるし。。(ドレスローザ編では、ルフィのギア4によって、建物を貫通する勢いで吹っ飛ばされ、地面をかなりの距離滑らされて、さらに建物に頭から突っ込んでいるというのに、すぐに立ち上がったり、強大な台地にめり込むほどに叩きつけられているのに骨一つ折れず、その台地をバキバキに砕いたりといった異次元の硬さを披露します)
もう作品のバランスが崩壊しすぎて、「ドレスローザ編」からは行き当たりばったりで描いてるんじゃないかと疑うレベルになってしまいました。
そんな「ドレスローザ編」への愚痴もとい改善点については、次回の記事で解説します。
>なんであそこまで脅威を煽った毒ガス兵器を無能化するだけの要素を入れ込んでくるのか意味がわかりません。
固めて仮死状態させる兵器は十分脅威になりうる兵器だと思います。シノクニが無能化させられたとは思わないです。また、シーザーはベガパンクの格下という印象を持ってたので、不完全な兵器に違和感はなかったです。
また、前半の海でも死んだと思われたキャラが生きていたことはありましたよね。例えば空島では、シャンドラの戦士や神兵(ガンフォールの部下)、バガヤなどはエネルに殺されたと思いましたが、結局生きていました。それによって、エネルの恐怖が茶番になったのでしょうか?